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毎日ねむい

長回し映像みたいなシーンが見える歌詞の曲

2013年にリリースされたGameniの『身代わりキボンヌ』という曲があって、その一節が「長回しの映像みたいに複数シーンがノーカットで繋がっていく」ように聞こえる、という話です。
他に似たような曲がみつかったらまとめるか〜と思って早7年、一向にみつかる気配がないので書きました。

曲を聴く

Apple Musicの試聴がちょうど該当部分(1番Bメロ)だったので貼ります。開始6秒、フル尺だと0:50のところ。

歌詞を見る

身代わりキボンヌ Gameni 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索

該当部分を引用します。

船が夜ごと去りゆく恋を
浮かべ荒れた海の上を渡る
丘を越えて駆ける馬車の
飾りつきの洒落た窓に映る
時間は華やいで流れてゆくわ

説明

視覚情報を羅列した歌詞

1〜4行目まで、基本的には目に見える情報について書かれています。
遠景の状況描写、時間の経過、場面の転換、3行目まではドローンでグワーっと撮った感じ。4行目で一気に寄ってディテールの描写、外から馬車に乗った主人公、そのまま窓を通り抜けて中から外を見る、みたいな流れ。
5行目、突然一人称で主人公がぼんやり考えていたことを窓の写り込みと重ねて転換、サビはそのまま独白につながります。

途切れず続く長い文

見たままですが一文が長い。Bメロ全体が、船が……/丘を……という二つの文で構成されていて、修飾語がかかる対象もやや曖昧です。

意味の切れ目と音の切れ目がずれている

音のリズムでいうと
タン | タタン | タタンタンタカタカ - タン | タタン | タタンタンタカタカ
という繰り返しになっていて、これに歌詞を乗せると
ふ | ねが | 夜ごと去りゆく - こ | いを | 浮かべ荒れた
というように、単語を分割する形でリズムに溜めを作っていることが分かります。
この緩急によってカメラが停止と移動を繰り返すような印象が発生しており、また、文章が確定しない状態でリズムを留保することで、意味の上でもシンコペーション的な操作をおこなっています。
同じリズム・旋律に乗っている2番Bメロでは、文節・意味の切れ目と音の切れ目が一致しており、全体を通して見ることでこの部分の特殊性がより際立ちます。
2番Bメロの歌詞です。

Oh my God
そんなまさかのクーデター
こんなことってないわ 濡れ衣なの
そうよ存外怖くはないわ
逃げ遅れただけの 人違いよ
事件は絡まってねじれてゆくわ

その他

記事の主な内容としては以上ですが、他に気になる点として

  • ボーカロイドという人間をエミュレートする疑似人格が歌詞の上でも女王のイミテーションを演じているという対応関係
  • 曲の始めにサビを1フレーズ持ってくることで、曲全体がクライマックスに向けた回想として機能している点

などがあります。

補足情報

Gameniって誰? IA? アルバムの詳細は?

Gameniは真部脩一(現: 集団行動、元: 相対性理論)が過去にやっていた変名ユニットです。
2012年に相対性理論を脱退、ハナエ/タルトタタンなどに楽曲提供していた頃、IAという新しいボーカロイドを使ったコンピレーションにこの名義で一曲だけ参加、ドラムは赤い公園の人が叩いています。
1stplace.co.jp

日本橋高架下R計画のMV

自分はボーカロイド全然詳しくないのですが、コンピレーション1作目のMVを監督: 細金拓哉、絵コンテ: 見富拓哉(原画も今見るとすごいメンバー)という布陣で作っていて、この映像がめちゃめちゃ良い。
今回の曲もその流れで知ったような記憶があります。

vimeo.com

当時のインタビューを読むと制作背景が分かっておもしろい(WhiteScreen無くなってしまったのでアーカイブ
細金卓矢&見富拓哉がアニメーションに挑戦する、じん feat. IA「日本橋高架下R計画」。25歳の等身大インタビュー!! | white-screen.jp

以上です。